今日は面倒なのでアル中ピカチュウによる最初の導入は省略する。さて「資金計画における 6 つの係数」において利率が \( r = 0 \) であるときの値を求めようとすると、分母に 0 が出てくる場合がありうまく計算できなさそうに見えるものがある。具体的には年金終価係数 \( k_3 \)、減債基金係数 \( k_4 \)、資本回収係数 \( k_5 \)、年金原価係数 \( k_6 \) である。しかしよく見てみると、\( r = 0 \) のとき分子も 0 になることに気づく。分母と分子が同時に 0 になる場合には、分数全体としては何らかの有限値になることが期待される。その有限値を簡単に求めることを可能にする定理が、以下に述べるロピタルの定理である。なお、分母と分子が同時に 0 になる(あるいは無限大になる)ような分数形を不定形と呼ぶ。
ロピタルの定理
あまりにも強力過ぎるゆえ受験数学の禁止カードと言われているロピタル(l’Hospital)の定理であるが、それを非常に大ざっぱに書くと次のようになるであろう。
(ロピタルの定理)分数関数の極限値
\[ \lim_{x \to 0} \frac{ f (x) }{g (x)} \]
は
\[ \lim_{x \to 0} \frac{ f'(x) }{ g'(x) } \]
に一致する。
すなわち、元の分数が不定形であったとき、分母と分子をそれぞれ 1 回ずつ微分して不定形が解消されれば極限が確定して嬉しい。不定形が解消されない場合は、上の定理の延長として 2 回、3 回、・・・と微分したものの極限を考えればよいが、今回の応用を考える上では上の記述だけで十分である。
ロピタルの定理:具体例
ロピタルの定理の応用例として、ここでは「資金計画における 6 つの係数」の \( r = 0 \) における値を求めてみる。これまでは 6 つの係数を \( k_1, \dots, k_6 \) で表していたが、この記事をここまで読んでいるだいぶ物好きな読者にとっては \( f_1 (r), \dots, f_6 (r) \) などと表す方が分かりやすいだろうし、なにより中ピカが書きやすいのでそうすることにする。
- 終価係数
\[ f_1 (r) = (1+r)^n \,\, . \]
これはロピタルの定理を使うまでもなく
\[ f_1 (0) = 1 \,\, . \]
- 原価係数
\[ f_2 (r) = \frac{1}{(1+r)^n} \,\, . \]
これもロピタルの定理を使うまでもなく
\[ f_2 (0) = 1 \,\, . \]
- 年金終価係数
\[ f_3 (r) = \frac{ (1+r)^n – 1 }{r} \,\, . \]
これは素直に \( r = 0 \) を代入しようとすると分母・分子ともに 0 となってしまって目的の値が分からない(0/0 型不定形。以下、すべてこの不定形に直面する)。そこで
\[ f_3 (0) = \lim_{r \to 0} f_3 (r) \]
と見てロピタルの定理を使うと
\[ f_3 (0) = \lim_{r \to 0} \frac{ (1+r)^n – 1 }{r} = \lim_{r \to 0} \frac{ n (1+r)^{n-1} }{1} = n \,\, . \]
- 減債基金係数
\[ f_4 (r) = \frac{r}{(1+r)^n – 1} \,\, . \]
これも同様にロピタルの定理を使うと
\[ f_4 (0) = \lim_{r \to 0} \frac{r}{(1+r)^n – 1} = \lim_{r \to 0} \frac{1}{ n (1+r)^{n-1} } = \frac{1}{n} \,\, . \]
- 資本回収係数
\[ f_5 (r) = \frac{ (1+r)^n r }{(1+r)^n – 1} \,\, . \]
ロピタルの定理を使って
\begin{align}
f_5 (0) &= \lim_{r \to 0} f_5 (r) \\
&= \lim_{r \to 0} \frac{ (1+r)^n r }{(1+r)^n – 1} \\
&= \lim_{r \to 0} \frac{ n (1+r)^{n-1} r + (1+r)^n }{n (1+r)^{n – 1}} \\
&= \frac{1}{n} \,\, .
\end{align}
- 年金原価係数
\[ f_6 (r) = \frac{ (1+r)^n – 1 }{ (1+r)^n r } \,\, . \]
同様に、ロピタルの定理を使って
\begin{align}
f_6 (0) &= \lim_{r \to 0} f_6 (r) \\
&= \lim_{r \to 0} \frac{ (1+r)^n – 1 }{ (1+r)^n r } \\
&= \lim_{r \to 0} \frac{n (1+r)^{n – 1}}{n (1+r)^{n-1} r + (1+r)^n} \\
&= n \,\, .
\end{align}
まとめ!
「資金計画における 6 つの係数」について、利率がゼロのときの値を求めるのは意外と大変チュウね!この記事では、それを簡便に求める手法としてロピタルの定理を紹介したチュウ!ロピタルの定理はとても大ざっぱにしか書いていないが、FP への応用を念頭に置く限りはこれで十分チュウ!しかし数学的にはいくつかの前提条件(満たすべき仮定)があり、中ピカには難しくてとても扱いきれないチュウ。。。先人が証明してくれた事実のオイシイところだけを各々の目的に合わせて援用することが大事チュウね!
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